GABAの機能発現機序に関する分子形態学的研究
脳は、運動の制御、視覚・聴覚・一般体性感覚などの受容、記憶と学習、怒り・快不快などの情動行動や本能といった全ての活動をコントロールしている。脳の内部は、数100億個の神経細胞が複雑な回路を形成しており、様々な分子が機能している。これら無数の機能分子の中で、私は、GABA(γ―アミノ酪酸)に注目している。
GABAは2つの顔を持つ。1つめは、成熟動物の脳において、興奮性神経伝達を制御する抑制性神経伝達物質としての顔。2つめは、発生期の脳において、興奮性に作用し、細胞分裂停止、細胞移動、シナプス形成など神経系の発生・発達に関与する、成長因子としての顔。そして、GABAの機能異常は、てんかん、不安神経症などの精神神経疾患を起こすことが知られ、近年では、ある種の統合失調症、自閉症との関連が指摘されている。
私は、これまで、GABAの機能発現に関与する様々な分子の局在・発現の解析を通じて、GABAシグナルの発達変化、すなわちGABAがどこから分泌され、脳内においてGABAがどのように機能を発現するか、発生・発達を横軸において、細胞・組織レベルで明らかにしてきた。今後は、GABAと脳の機能との関係、GABAシグナルの異常である精神神経疾患の発症機序に注目して研究を行っていきたいと考えている。
図1GABA伝達に関与する分子群 | |
図2GABAを含むシナプス小胞(緑)とGABA受容体(赤)マウス小脳皮質 図3GABA受容体遺伝子の発現 in situ hybridization法 マウス小脳 図4GABAの作用を抑制性に保つ、トランスポーター(KCC2)の局在 マウス小脳顆粒細胞、免疫電顕像 図5 GABAを再吸収するGABAトランスポーター(緑)とプルキンエ細胞マーカー(カルビンディン)(赤) マウス小脳皮質 |