「新海馬体地図に基づく認知症モデルマウスの形態学的解析」
正確な地図がなければ測量できないように、正確な脳地図なくして脳の機能解析は進みません。しかしながら、これまで記憶の形成に関わる海馬体の脳アトラスは未完成でした。海馬体の出力部に当たる「海馬台」(subiculum)の内部構造が不明だったからです。そこで、免疫組織化学的手法を用いてタンパク質の局在を分析した結果、海馬台の細胞構築が明らかになり、海馬体全体の領域・層区分が可能になりました。
この新海馬体地図を用いて、認知症モデルマウスの海馬体を解析したところ、腹側海馬体の特定部位にアルツハイマー病(AD)の原因物質とされるアミロイドβや過剰リン酸化タウが蓄積することが判明しました。現在、AD原因物質が沈着するニューロンの種類と、AD原因物質の蓄積機序を解明すべく、認知症モデルマウス脳の加齢依存的解析を行なっています。さらに、AD原因物質が蓄積するニューロンの全形態を可視化する新型モデルマウスを開発中です。認知症の神経基盤を明らかにすることで、記憶そのものの仕組みに迫っていきたいと考えています。